アメイジンググレイス

今週のお題「わたしは○○ナー」


わたしは「余計なお世話ー」です。

いつも同じバス停で出会う貴婦人。カーリーヘアに可愛らしいカチューシャ。花柄のワンピース。真っ赤なネイル。全身オシャレなまごうことなき貴婦人。御年90歳くらいか。

雨の日も晴れの日も、暑い日も寒い日もいつもいつでもどんなときもどんなときもぼくがぼくらしくあるためにわたしたちは同じ時間のバスに乗り込むのだった(途中、謎のサブリミナルメッセージ。マッキーが視えましたよね、何ででしょうね)。

くだらないサブリミナル効果はさておき、とにかく、わたしたちはいつも同じ時間にバス停で顔を合わせ、そしてひとことふたこと言葉を交わすのだった。それは「暑い日が続きますね」のような他愛もないやり取りなのだけれど、バス停以外で会うときに「あら、こんにちは」と挨拶する程度には顔見知りの間柄になった。


そんな貴婦人とめっきりお会いしなくなってしまった。一体いつから顔を合わせなくなったのだろう。夏の暑い日に言葉を交わした記憶はあるか。いや、ないような気がする。それでは春にはお会いしていただろうか。どうだったか。思い出せない。

……まさか。

冬を越せなかったのだろうか。
未曽有の新型感染症が世界を轟かすこのタイミングでもしや。

御年90歳くらい。

もしや。

何だか胸騒ぎがする。全くもってデリカシーに欠ける話なのだが、脳内BGMとして突如「アメイジンググレイス」が流れ出す。唐沢寿明氏主演ドラマ「白い巨塔」でおなじみのあの曲だ。

挙げ句の果てに、ネロと巻き添えをくらったパトラッシュが教会で行き倒れるあの名作アニメのラストシーンが脳内スクリーンを照らす。(ストーリーの理解が雑)

人はいつかいなくなる。そういうものだ。たからわたしは今日、バス停にていつものようにバスを待ちながら合掌した。人はいつかいなくなるのだ。もう会うこともない貴婦人を思い、手を合わせた。

そして、目をあけると横断歩道の向こう側に見覚えのある華やかな御姿が!!

貴婦人!!ご存命でいらっしゃる!!よかったーー!!
何たるAmazing grace!!(いい意味で)

貴婦人はしっかりした足取りでバス停へいらして、そしてバスを待つ別のご婦人と「ご無沙汰してます」と楽しそうに言葉を交わしている。めちゃくちゃお元気そう。

そして、バッグ内のスマホの着信音が鳴るや否やスマホを華麗に操り「はい、もしもし?」と美声で応対をはじめた。

「今からそちらに向かうわ~」って、貴婦人、それ、異界からの電話ではないよね?大丈夫よね?

と心配になるわたし。さすがに余計なお世話にも程がある。